スイスの自国通貨であるスイスフランは、為替市場における全体の流通量の5%を占めていると言われいます。
決して規模は小さくなく、世界的にも信頼性の高い国際通貨です。
FXでは、CHF/JPY(スイスフラン/円)の他に、USD/CHF(米ドル/スイスフラン)やGBP/ CHF (ポンド/スイスフラン)など多くの通貨ペアがあります。
※ちなみに、CHFとは「Confoederatio Helvetica franc」の略称で、日本語では「スイス連邦共和国フラン」と呼びます。
今回は、スイスフランについて解説します。
目次
スイスフランの世界的な位置づけ
スイスのGDPは、世界213カ国中で第19位に位置しており、1人当たりGDPについては世界第2位となっています。(いずれも2020年時点の名目GDP)
GDP(国内総生産)とは、一定期間で生産したモノやサービスの価値を示す指標です。
数値が高いほどその国の景気、及び経済が豊かだと判断できることから、スイスは経済的に安定した国といえるでしょう。
上記に加え、スイスは永世中立国であり、多国間の戦争には永久に介入しない方針とされています。
そのため、有事の際などに通貨価格が暴落する可能性は極めて低く、国際的な安定通貨とされています。
スイスフランの特性
スイスフランは、永世中立国という立場から自国内およびユーロ圏の政治・経済要因以外では、大きな値動きがない通貨です。
地政学リスクが発生した際に、価格変動の影響を受けにくく安全性が高いため、有事の際に買われやすい通貨といえます。
例えば、2001年の「米国同時多発テロ」、2003年の「イラク軍事介入」時などは、スイスフラン/円の円建てで買われていることがわかります。
当時の日足チャートをご覧ください。
2001年9月11日、同時多発テロ前後の日足チャート
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2003年イラク軍事介入前後の日足チャート
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2022年2月24日ウクライナ侵攻
2022年3月には「ロシアのウクライナ侵攻」により、大幅に買われている状況です。
以下2つのチャートから、円建て、ドル建ての双方から見ても、2022年3月時点でスイスフランが安全通貨として買われていることが確認できます。
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スイスフランが上がる要因
国際情勢 | 地政学リスクがある場合 (自国に影響しないことが前提) |
金融政策 | スイス中銀が発表する金利政策(利上げ) 金融緩和策の縮小 |
経済指標 | スイス失業率 スイスGDP スイス消費者物価指数などの経済指標が市場予想を上回った場合 |
スイスフランが下がる要因
国際情勢 | 地政学リスクがなくなった場合 (自国に影響しないことが前提) |
金融政策 | スイス中銀が発表する金利政策(利下げ) 金融緩和策の拡大 |
経済指標 | スイス失業率 スイスGDP スイス消費者物価指数などの経済指標が市場予想を下回った場合 |
スイスフランと金は高く相関している
スイスフランと金は高い相関関係にあります。つまり、スイスフランが買われると、金が買われる傾向にあり、その逆も然りです。
理由としては、以下2点が考えられています。
金との相関理由:スイスは歴史的に多くの金を保有しているため
スイス憲法は以前まで、通貨には4割の金の裏付けが必要であると義務付けていました。(現在、当条文は削除されています)
したがって、歴史的にスイスは多くの金を保有しており、必然的にスイスフランとの関係性が深くなっていると言えます。
ちなみに、2019年時点で、スイスの金保有量は世界第7位に位置し、世界の国々の中でも多くの金を保有していることが確認できます。
金との相関理由:特性が似ているため
先述の通り、スイスフランは有事の際に買われる安全通貨だが、金も同様に安全資産とされています。
これは、金は現物資産であるため、有事の際であっても無価値にならないためです。
●GOLDCFDの月足チャート
2020年以降、コロナウイルス拡大による世界の金融緩和に伴い、そもそも金価格は上昇していました。
加えて2022年3月の「ロシアのウクライナ侵攻」により、さらに安全通貨として金が買われ、価格の上昇が継続している状況です。
したがって、スイスフランと金は特に有事の際に買われる傾向にあり、必然的に相関は高くなると言えるでしょう。
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世界を揺るがしたスイスフランショック
スイスフランは安全通貨ですが、2015年にスイスフランショックと呼ばれる世界を揺るがす程の価格変動を起こした事があります。
実際のチャートでは、以下のようにいびつな形となり、短期間で約30%程度の変動が確認できます。
EUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)の日足チャート(2015年スイスフランショック)
なぜスイスフランショックが起こったのかと言うと、2015年1月15日に突然、スイス中銀が、「これまで行ってきた為替介入をやめる」旨を宣言したからです。
それまでのスイス中銀は、スイスフランの高騰を防ぐために対ユーロ(ユーロ/スイスフラン)での上限値を1.2000フランに設定し、いわば為替に無限介入している状態でした。
上限値付近になると、スイス中銀はスイスフランを売り続け、価格維持をしていました。
市場参加者はこの仕組みを利用し、上限値をスイス中銀が保証してくれる状況の中で、優位にトレードを進めていました。
しかし上述のスイス中銀の宣言により、一気にスイスフランの買いポジションが発生し、スイスフランショックに繋がってしまったのです。
無理なレバレッジをかけて取引していたFXトレーダーが大打撃を受けたことは言うまでもなく、当時、海外で人気だった証券会社も、この件で破綻をしています。
このように、スイスフランは、基本的には価格変動があまり発生しない通貨である一方、自国内およびユーロ圏の政治、経済要因で大幅な変動がある歴史もあります。
対円のチャートでも大量のスイスフラン買いが確認できます。
CHF/JPY(スイスフラン/円)の日足チャート(2015年スイスフラン買い)
スイスフランの特性を理解してトレードしよう!
スイスフランは永世中立国による安全通貨のため、有事の際に特に好まれる通貨です。
通常は大きな値動きがないため、大きく利幅を取りたい方には少し物足りない通貨ですが、逆にいえば、それだけ安定しているということです。
現在、ロシアとウクライナ間で戦争が勃発している中、安定通貨に投資することは必然と考えてよいでしょう。
しっかりと世界情勢をキャッチし、理解することで、スイスフランは値動きが読みやすい通貨となります。
しかしながら、2015年に発生したスイスフランショックのように短期間かつ突発的に大幅な価格変動が発生する場合もあります。
今後も政治や国際情勢のニュースを常にチェックし、スイスフランの動きに注目して行きましょう。
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